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民法改正・解説コラム 第9回「定型約款」

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民法改正・解説コラム 第9回「定型約款」

弁護士 吉田 友樹示

1.約款の意義と問題

電気、ガス、運送、旅行、引越、宅配便、保険、クレジットカード、預金、携帯電話など、現代社会では様々な取引の場面において約款が利用されています。

このような約款は、大量の取引を合理的・効率的に行うため、約款の条項を確認しながら個別的にその内容を交渉することはなく、あらかじめ定められた画一的な約款の条項に拘束力を認めるところに意義があり、これまでも、このような約款は原則有効とされていました。

しかし、約款は、非常に多条項に渡っていることが多いため、契約をする前に約款を読む人は少ないと思いますし、恥ずかしながら私自身も見ていないことがほとんどです。それにもかかわらず、約款が作成されているというだけで常にそれに拘束されてしまっていいのか、また、約款の条項に記載されていることはどんな内容でも効力があるとしてしまっていいのか、などの問題があります。

実際に、この問題に関して、携帯電話会社を相手として、会社が約款の内容を変更することがあるとし、料金その他の提供条件は変更後のものが適用されるなどとする約款の条項について、一方的に契約内容を変更できるとするのは無効であるなどと争われているような事件があるところです。

このように、約款は有用ではありますが、色々な問題を抱えているにもかかわらず、民法にはその規定が全くなかったことから、民法において一定のルールを定めようということになり、今回の民法改正で「定型約款」の条文が新設されることになったのです。

2.改正民法で定められる「定型約款」とは何か

今回の民法で規定された「定型約款」は以下の要件を満たすものになります。

  • 「特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引」であって、
  • 「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」である取引(改正民法は、①+②の取引を「定型取引」としています。)を合意したときに用いられる
  • 「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」

したがいまして、不特定多数の者を相手にしないものだったり、当事者間で個別的にその条項を検討するようなことが予定されたりするもの(ひな形など)は、「定型約款」には該当しません。

この「定型約款」については、一般的には企業対消費者の取引でのものが想定されていますが、企業対企業の取引で利用されるものあっても、要件を満たすものについては「定型約款」に該当することになります。

そして、①「定型約款」を契約の内容とすることの合意をした場合や②定型約款を準備した者があらかじめその「定型約款」を契約の内容とすることを相手方に表示していたときには、「定型約款」の個別の条項についても合意したものとみなされます。

3.「定型約款」に対する規制等

ただし、この「定型約款」について、条項に記載さえされていれば、何でも有効というわけではありません。

今回の民法改正では、(1)相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項で、(2)その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものについては、合意をしなかったものとみなす、とされており、当該条項についての拘束力は生じませんので注意が必要です。

また、定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で、その定型約款の内容を示さなければならないとされ、取引前において、正当な理由なく開示しない場合には、その約款に合意したことにはなりません。

もっとも、あらかじめ「定型約款」を記載した書面を交付し、または電磁的記録で提供していた場合には重ねて示す必要はありませんので、可能であれば、あらかじめ「定型約款」の交付や提供をしておき、相手方において提供を受けたことが分かる書面を相手方から取得しておく方法もあろうかと思います。

4.「定型約款」の変更の際に気をつけなければならないこと

一旦定めた「定型約款」であっても、その定款の内容が、時間経過や状況の変化に応じて不適当になる場合があり、そのような場合には定款を変更したいという場合もあるかと思います。

改正民法では、個別の合意が不要な一方的な変更についても一定の要件の下に認めており、その要件は(a)変更が相手方の一般の利益に適合する場合、または(b)変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである場合としています。

基準については抽象的ですが、変更する場合には、特に変更の必要性、変更後の内容の相当性については十分に検討する必要があるでしょう。

「定型定款」の変更を行うにあたっては、変更の効力発生時期を定めたうえで、定型約款を変更すること、変更後の定型約款の内容、その効力発生時期についてインターネットの利用その他の適切な方法によって周知しなければならず、特に(b)の変更の際には、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ、その効力を生じないとされています。

「定型約款」の変更で問題になるのは(b)の変更の場合がほとんどだと思われますので、適切な方法による周知は大変重要となるでしょう。

なお、この効力発生時期までの周知についてどの程度の期間が必要かなど具体的な規定はありませんが、不利益変更のような場合などは周知の期間がそれなりに設定されていなければならないと思われます。

5.最後に

改正民法で定められる「定型約款」は、一定の要件を満たすもののみが対象となりますが、それに該当しないものについて『約款』との標記が禁止されるということはありませんので、何が改正民法のいう「定型約款」に該当するのか、該当する場合には、どのように対応すべきかをしっかりと理解し、対応が必要であれば、早めにその対応を検討しておく必要があるでしょう。

弁護士 吉田 友樹示
弁護士 吉田 友樹示

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