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財産分与のすすめ

弁護士ブログ

財産分与のすすめ

弁護士 福田 直之

【事例】

相談者は札幌市内に住む54歳の専業主婦Aさん。夫のBさんは、58歳で大手企業勤務。

結婚して30年、夫婦には子供はなく、賃貸物件に夫婦で居住。

夫婦にはそれぞれの名義の預金、生命保険があるほか、Bさんは2年後に退職が控えており、2000万円の退職金が出る予定。

AさんはBさんの言葉の暴力などのモラハラ(モラルハラスメント)に耐えられなくなり別居、離婚を決意して札幌市内に別な賃貸物件を借り別居を開始。

Bさんからは、生活費の支払が一切ないほか、財産分与は1円も渡さないなどと言われたことから相談に至った。

1 はじめに

このように、離婚に関するご相談の中に、別居をした後、夫が生活費を支払ってくれない、とか、夫には多額の財産があるのに財産分与を一切してくれないなどというケースが多くあります。

夫側の言い分としては、妻が離婚をしたいと言って勝手に出て行ったのだから、お金など払う必要がない、自分が稼いで貯めたお金だから妻にあげる必要はないという考えのようです。

しかしながら、この考え方はいずれも法的には誤りです。

2 婚姻費用の支払義務について

民法760条において、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定されています。

これは、生活保持義務とされており、お互いの生活レベルが同質、同程度になるように維持する義務であって、法的にはかなり重たい義務です。

別居を始めたといっても、夫婦である以上、夫には妻に対する婚姻費用の支払義務は存続します。

したがいまして、Bさんは、Aさんに対し、収入等に応じた適切な婚姻費用の支払をしなければなりません。

仮に、Bさんが婚姻費用の支払をしない場合は、Aさんは、管轄の家庭裁判所(本件の場合は札幌家庭裁判所になります。)に対して、適切な婚姻費用の支払を求める婚姻費用分担の調停、審判を提起することができます。

相手方が拒否を続けたとしても、最終的に裁判所が金額を決定して支払の審判を出してくれます。

また、生活費の支払が止められたことにより生活が立ち行かなくなり、一刻も急ぐような事情があれば、これらの手続に併せて仮処分という手続をとって早急に支払いをしてもらうように求めることも可能です。

3 財産分与について

財産分与とは、夫婦生活中にその協力により築き上げた財産(共有財産)を離婚時に分けることを言います。

具体的には、夫婦の名義の如何を問わず、夫婦生活中に貯めた預金等の積極的な財産のほか、夫婦生活において借入をしたローン等の消極的な財産も含めて全てを合算して2分の1の割合で分け合うというイメージです。

この財産分与も、妻が一方的に出て行ったからという理由で拒否できるというようなものではありません。また、妻が専業主婦だからといっても、妻が家事労働の提供をし、家庭を守っていたからこそ夫が外で安心をして仕事ができて財産を形成したということになりますので、財産分与の場面で不当に減額されることはなく、原則どおり2分の1の割合で分与されるということが通例です。

なお、今回の件で取り扱いが問題となるのが退職金です。

今回の場合、退職金が支給されるのは2年後であり、現実的にお金を手にしていないところではありますが、退職金が出る可能性が極めて高いこと、退職金にはそれまで勤務してきた期間の功績に対する給与の後払い的な側面があること、婚姻期間が30年もあり勤務していた期間中のほとんどが婚姻していた状態にあったことなどの事情から、退職金のほとんどの部分について財産分与の対象になると考えられます。

したがいまして、Aさんは、Bさんに対し、退職金2000万円の大半について財産分与の前提として含め、相当な金額の財産分与を求めることができます。

仮に、財産分与についてもBさんが応じない場合には、Aさんは、家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)の調停を申し立てるなどの方法により、適切な財産分与を求めていくことができます。

4 最後に

一昔前に比べ、インターネットなどで情報も多くなっていることから、離婚に関する相談はしやすい環境になってきたとは思います。

しかしながら、未だに家の中のトラブルは他人に相談するものではない、と一人で悩まれ、結果的に納得のいかない、法的にも不利な内容で解決をしてしまっているケースも少なくないように感じます。

特に今回のケースのように婚姻期間が比較的長期間であって、夫婦の共有財産も相当額あるような場合だと、財産分与で結果的に女性側が不利な解決になってしまう可能性もありますので、そのようなときはぜひとも一度ご相談いただければと思います。

弁護士 福田直之

弁護士 福田 直之

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