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民法改正・解説コラム 第5回『賃貸借の連帯保証』

弁護士ブログ

民法改正・解説コラム 第5回『賃貸借の連帯保証』

弁護士 野谷 聡子

1 賃貸借の実務に与える影響

賃貸借に関する条文の改正(民法第601条から第622条の2まで)の多くが、従前の通説や判例法理を条文化したものです。改正前も、実務はこれらの通説や判例法理に則って行われていましたので、今回の賃貸借に関する条文の改正自体により、実務が大きく変更されるわけではありません(これまで通説・判例に根拠を求めていたものが、民法の条文に基づくことになるということ)。

これに対し、賃貸借の実務への影響が極めて大きい改正として、保証に関する条文の改正があります。保証制度の改正については、既に以前のコラム【保証制度の改正~安易な保証による生活破綻や無制限な保証債務の増大を防止するために~】で総論的にお話していますが、今回はその中でも、賃貸借の実務に与える影響が大きいものについて、具体的にお話したいと思います。

2 賃貸借の連帯保証

不動産(土地・建物)の賃貸借においては、ほぼ例外なく、連帯保証人を立てること(連帯保証契約)が要求されます。最近では、賃借人が、適当な連帯保証人を用意できない場合に、保証料を支払って保証会社を利用することも増えています。賃貸物件にお住まいの方は、お持ちの賃貸借契約書の後ろの方を見て頂くと、『連帯保証人(丙)は、賃借人(乙)と連帯して、本賃貸借契約から生じる乙の債務を負担するものとする。』といった条項と、末尾に「連帯保証人」「丙」の署名押印欄があると思います。以下では、これを賃貸借の連帯保証といいます。

連帯保証とは、簡単に言えば、連帯保証人が債権者(権利者)に対し、主債務者(主たる義務者)と同じ債務(義務)を負うことを約束するものです(人的担保)。賃貸借契約についていえば、債権者は賃貸人、主債務者は賃借人ということになります。

賃貸借の連帯保証において、連帯保証人が保証する対象は、賃借人の賃料を支払う義務や契約が終了した時に賃貸目的物(建物など)を返す義務、賃貸目的物を返す際にこれを原状に復する義務、火災や水漏れといった事故を起こした場合の損害賠償義務など、賃貸借契約に基づいて発生する賃借人の債務全般です。そのため、賃貸借における連帯保証人の義務というのは、時に支払額が高くなる可能性のある、非常に重いものだということができます。

3 根保証契約

保証契約の一種に、根保証契約というものがあります。根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約のことです。賃貸借の連帯保証は、連帯保証人が、「賃貸借契約に基づいて発生する賃借人の債務」という「一定の範囲」に属する「不特定の債務」を保証する契約ですから、根保証契約の一種です。根保証契約の場合、保証の対象は「不特定の債務」であるため、実際に保証人が保証債務を履行する場合には、主たる債務が「特定」されている必要があります(例えば、保証人が主債務者に代わって債権者にお金を払う場合には、その時点で払う金額が決まっていなければならない、ということ)。これを「主たる債務の元本を確定する」といいます。主債務の元本が確定した後は、保証人はこの確定した元本とこれに従たるもの(利息や遅延損害金など)についてのみ、支払う義務を負うことになります。

今回の民法改正では、この根保証契約のうち、保証人が個人であるもの(個人根保証契約)に関する改正が行われました。以下では、その中でも賃貸借への影響が大きい2つの条文を取り上げて説明したいと思います。

4 個人根保証制度の改正と賃貸借に及ぼす影響

(1)改正民法466条の2第2項および第3項

  • ア 改正内容

    個人根保証契約は、極度額を書面で定めなければ、その効力を生じない。

  • イ 賃貸借への影響

    極度額とは、保証人が保証する範囲・上限額のことです。個人根保証契約の場合は、この極度額を書面をもって定めなければ、契約自体が無効になります。この書面は、公正証書である必要はなく、普通の契約書で足ります。極度額は、一定の金額をもって定める他、賃料3か月分、といった定めでも、賃料の額が特定されていて、上限額を確定できるのであれば有効です。

    賃貸借の連帯保証契約でも、保証人が保証会社ではなく、個人(親戚や友人など)の場合は、極度額を書面で定める必要があります。連帯保証人の署名押印欄がある賃貸借契約書の中に、連帯保証に関する条項が設けられていれば、「書面で」という要件は満たしますが、問題は「極度額の定め」です。前述したような、これまでの契約条項(『連帯保証人(丙)は、賃借人(乙)と連帯して、本賃貸借契約から生じる乙の債務を負担するものとする。』)では、極度額が定められていませんから、この契約書を改正法施行後も使えば、個人の連帯保証契約の部分は無効になってしまいます。今後は、例えば、『連帯保証人(丙)は、賃借人(乙)と連帯して、本件賃貸借契約から生ずる乙の債務を、賃料1年分を限度(極度額)として、負担するものとする。』といった定めに変更する必要があります。

(2)改正民法465条の4第1項3号

  • ア 改正内容

    個人根保証契約における主たる債務の元本は、以下の場合に確定する。

    主債務者、または、保証人が死亡したとき

  • イ 賃貸借への影響

    主債務者あるいは保証人が死亡した場合、主債務の元本が確定するので、保証人はその限度(元本とそれに付随して発生する利息や遅延損害金の合計額、ただし極度額の範囲内)でのみ義務を負えばいいことになります

    1. ① まずは、「主債務者」である賃借人が「死亡したとき」についてみていきましょう。

      ここで少し注意したいのは、賃貸借契約自体は、賃借人が死亡しても終了しない、ということです(賃借人たる地位が相続人に相続されます)。つまり、賃借人が死亡した場合、賃貸借契約は従前のとおり継続するにもかかわらず、連帯保証契約の元本は確定するので、連帯保証人は、それ以後に賃貸借契約から発生する賃借人の債務を負担しません。

      例えば、賃貸人A、賃借人B、連帯保証人Cという建物賃貸借契約・連帯保証契約(極度額:賃料1年分)においてBが死亡した場合、死亡時点でBが1か月分の賃料を滞納していれば、Cは、連帯保証債務の履行として、賃料1か月分(元本)とこれに対する遅延損害金を支払わなければなりません。しかし、Bが死亡しても賃貸借契約は終了しませんから、その後、滞納賃料が増えていっても、Cはその後の滞納賃料を支払う義務は負いません。また、賃貸借契約が継続している以上、B死亡時点では、原状回復義務や建物明渡義務は発生していませんので、Cはこれらの義務を負いません。他方、Bの死亡が賃貸建物内での自殺であった場合で、当該自殺によって新たな賃借人募集ができないなどの損害がAに発生すれば、当該自殺行為自体が賃貸借契約上の賃借人の債務不履行に該当する可能性がありますので、この場合には、Cは、連帯保証債務の履行として、Aに対し、Bの当該債務不履行に基づく損害を賠償しなければなりません。

      Bの相続人が引き続き当該建物を賃借する場合、Bの死亡および元本確定により、Cはもはや以後に発生する賃借人の債務を連帯保証しなくなっているので(連帯保証人がいない状態)、AはBの相続人に新たな連帯保証人を準備させる必要があります。

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    2. ② 次に、賃貸借の連帯「保証人」が「死亡したとき」についてみていきましょう。

      保証人が死亡すれば、元本が確定するので、保証人死亡時点で賃借人が負っていた債務があれば、その元本とこれに対する遅延損害金が保証の対象となり、保証人の相続人が当該保証債務を相続します。他方、保証人死亡以後(元本確定後)に発生した賃借人の債務は、死亡した保証人が保証する対象には含まれませんので、その相続人もこれを相続することはありません。つまり、保証人が死亡すると、保証人死亡後に発生する賃借人の債務を保証する人がいなくなるということです。当然のことながら、保証人が死亡しても賃貸借契約は続いていきますから、賃貸人としては、賃借人に対し、新たな保証人を準備させる必要があります。

4 今後の留意点

個人根保証契約に関する民法改正は、賃貸借の連帯保証(個人が連帯保証する場合)の実務に大きな影響を及ぼします。特に、賃貸人側は、これまで使用してきた賃貸借契約書の変更を含めた対応が欠かせませんので、改正法施行前に是非一度ご相談ください。

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弁護士 野谷 聡子

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