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預貯金口座の開示請求

弁護士ブログ

預貯金口座の開示請求

弁護士 野谷 聡子

相続人で遺産の分け方について話し合いを行う際、そもそも遺産の内容がはっきりしない、あるいは、本来あるはずの遺産がない、といった事態がしばしば生じます。では、あるはずの遺産が見当たらない場合、それがどこに行ったのか、どうやったら調べることができるのでしょうか。今回は、遺産としての預貯金について、事例をもとにお話したいと思います。

【相談事例】

1年前、母が亡くなりました。父は10年前に他界していますので、相続人は私と兄の2人だけです。母は、生前、兄家族と同居していて、兄嫁が母の介護と財産管理のすべてを行っていました。私が最後に母に会ったのは去年の正月ですが、その時、母は、私に対し、兄にはこれまで自宅の改装費用や孫の学費などの経済的な援助をたくさんしてきたが、私には何もしてあげられなかった、そこで、○×銀行の定期預金1000万円を私のために残しておいたから、自分が亡くなった時には受け取ってほしい、と言いました。しかし、先日、母の四十九日で兄に会った時に、兄から、母の遺産は何もないので兄弟で分けるものはない、と言われました。私は兄に、去年の正月に母から聞いた話をして、定期預金1000万円があるのではないか、母が生前兄家族を援助してきたことについては何も言う気はないが、せめてこの定期預金だけは一部でも相続したいと話しましたが、兄は、そんなものはない、の一点張りで、母名義の預金通帳も一切見せてくれません。私が、兄の同意を得ずに、母名義の○×銀行の預金口座の中身を調べることは出来るのでしょうか。

1 預金契約とは

預金契約とは、預金者が金融機関に金銭の保管を委託し、金融機関が預金者に同種、同額の金銭を返還することのほか、振込入金の受入れ、各種料金の自動支払、利息の入金、定期預金の自動継続処理等の事務処理をすることを内容とする契約です。金融機関は、この預金契約に基づいて、預金者の求めに応じて預金口座の取引履歴を開示して、金融機関の事務処理の状況を報告する義務を負っています(民法645条、656条)。

また、金融機関は、預金者に関する情報や預金者との取引に関する情報を秘密として管理していますので、原則として、預金者以外の者が、当該預金者と金融機関との間の取引の内容が記載された預金口座の取引履歴を開示請求することはできません。

2 被相続人の預金口座

金融機関は、かつては、共同相続人(複数いる相続人)のうちの一人からなされた被相続人の預金口座の取引履歴の開示請求について、他の共同相続人全員の同意がなければ、開示には応じられないという対応をしていました。これに対し、最高裁判所第1小法廷平成21年1月22日判決 は、以下のように述べて、金融機関はこのような取引履歴の開示請求に応じるべきであると判断しました。

「預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(民法264条、252条ただし書)というべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。

上告人(注:金融機関)は、共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示することが預金者のプライバシーを侵害し、金融機関の守秘義務に違反すると主張するが、開示の相手方が共同相続人にとどまる限り、そのような問題が生ずる余地はないというべきである。なお、開示請求の態様、開示を求める対象ないし範囲等によっては、預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があると考えられるが、被上告人(注:共同相続人の一人)の本訴請求について権利の濫用に当たるような事情はうかがわれない。」

現在では、金融機関は、この最高裁判所の判決に沿って、共同相続人の一人から被相続人名義の預金口座の取引履歴の開示請求があった場合には、原則として応じています。したがって、被相続人の預金口座があるかどうか、あるいは、その取引の内容を確認したい場合には、相続人であることを示す資料を持って、金融機関に取引履歴の開示請求を行うことができます。もっとも、開示される過去の取引履歴の範囲(期間)や手数料等は各金融機関によって対応が異なりますので、それぞれの金融機関にお問い合わせください。

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弁護士 野谷 聡子

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