札幌タイムスに掲載された原稿を若干手直しして掲載しています。顧問契約をしていない方からメールでご相談いただいても、原則としてお答えすることはありませんのでご了承ください。
誤診による再検査費用の請求は
昨年夏、腹痛で近所のA医院に行き「胃がんでは」と言われB病院を紹介されました。B病院で検査を受けたところ、がんではないことが分かったので治療はしませんでした。
しかし痛みはおさまらず、C総合病院で改めて検査したところ、胃かいようですぐに入院の必要があると言われました。そのまま入院、適切な治療を受けることができました。
今はすっかり回復していますが、2度の検査にかかった費用はバカにならず、できればAあるいはBに賠償してもらいたいところです。
この場合、がんと誤診したAに責任があるのでしょうか。それとも、胃かいようを見つけられず結果的に再検査に追い込んだBに責任があるのでしょうか。
まず、本件で誰に責任があるのかについて検討してみます。
A医院やB病院には、あなたとの医療契約に基づいて適切に診断し、何らかの疾病があるのであれば、それを適切に治療する義務があるといえます。(自らの施設では十分な治療を施せない場合には、適切な医療機関を紹介する義務も認められるでしょう。)
その義務について、故意又は過失によって義務を果たすことなく、患者に損害を被らせたときには損害賠償の義務が生ずることになりますが、本件の事実関係でA医院やB病院に賠償義務を認めることができるでしょうか。以下に検討してみます。
まず、A医院ですが、同医院については、胃かいように対して胃がんの疑いありと診断したことに過失を認めることができるか否かという点で否定的に考えられるのではないかと思います。A医院の診断は、胃がんの疑いがあるということで他の検査施設の充実した病院を紹介したということですから、この点で過失を認めることは困難でしょう。仮に、A医院に過失を認めたとしても、同医院における誤りは、症状をより重いものと誤診したということであり、そのことによってあなたには特別の損害は生じていないということになると思います。すなわち、仮に胃かいようの診断であったとしても、専門的な治療のできる病院としてやはりB病院を紹介したでしょうし、B病院では胃かいようとの紹介であったとしても胃がんの疑いがあれば同様の検査をしたでしょうからこのことによってあなたに特別の損害が発生しているとは認められないからです。
一方、B病院については、胃がんの疑いありとして紹介を受けていながら胃かいようを見落としたというのですが、胃がんの疑いありということであれば胃かいようも疑ってみるべきですからから、この点で診断ミスがあったといえるでしょう。そして、そのためにもう一度検査をする必要が生じたというのですから、その分の検査費用を損害としてB病院に請求することは可能であると思われます。胃かいようの発見が遅れたことによって、症状が悪化して早期発見の場合よりも長期の入院加療が必要であったとすれば、その分の損害(休業損害や慰謝料)を請求することも可能となります。
先行車に視界を遮られて信号が見えなかったときの責任は?
交通事故を起こしてしまいました。信号無視をしてしまい、交差点でほかの車にぶつかってしまったのです。
実は「青だ」と思って進んだのですが、すぐ前を走っていた大きなトレーラーのため信号機が見えず、そのトレーラーが発進したので後に続いたら、トレーラーが信号無視をしていたのでした。車輌の持ち主を調べて運送業者に抗議に行ったのですが、「あなた自身の信号無視が原因だから、こちらに責任はない」と、取り合ってくれません。でも、私が信号を見落としたのはトレーラーのせいだと思います。
事故の責任をとってもらうことはできるでしょうか。
ご質問の趣旨は、先行するトレーラーが自分の視界を遮って走行していた際に、信号を無視して発進したことから、後について走行した自分が事故に遭った責任をトレーラーに負わせたいということだと思いますので、順次その法的な意味を考えていきましょう。
まず、トレーラーの運転者があなたに対して何らかの責任を負うとすれば、トレーラーの運転者があなたに対して不法行為責任を負わなければならない関係が認められる必要があります。不法行為とは、故意又は過失によって、被害者の権利を侵害する行為を指しますが、そのことによって被害者に損害が発生した場合には、不法行為者が損害賠償の責任を負うことになります。
それでは、本件が法的にどのように評価されるかですが、先行するトレーラーの運転者があなたに対して故意又は過失によって権利侵害をしたといえるかといえば、結論は否定的にならざるを得ないと思います。
あなたには、交通信号に従って自動車を走行させなければならない注意義務があり、それは、先行車について走行すれば足りるものではありません。あなた自身が自分で交通信号を確認して走行しなければならない注意義務があるのですから、先行者の動きに惑わされたからといってそれで責任がなくなるわけではありません。
先行するトレーラーが意図的にあなたを事故に遭わせようとした場合や、普通の運転者であれば誰もがあなたのように後ろについて走行してしまうというような特別の事情がある場合以外は、トレーラーの運転者やその会社に責任を取ってもらうことは無理と考えるべきです。
なお、自動車の運転は、ある程度先行きの見込みを持って運転することによって車両をスムースに走行させることができるのですが、見込みを持って走行することと思い込みで周囲の確認を怠ることは全く違うことです。
本件でも、あなたは、トレーラーから少し車間距離を置いて信号が確認できるような走行をすべきだったと思いますがいかがでしょうか。
離婚歴を暴露されたことの法的責任を問いたいのですが
私は29歳の女性会社員です。
職場の大勢が参加する慰労会がありました。同僚の男性とちょっとしたことで言い争いが始まり、お酒も手伝ってほとんど喧嘩のような口論になってしまいました。そこで、興奮した相手が、私に離婚歴があることを皆の前でばらしてしまったのです。
私はそのことを会社に隠していて、親友の女性しか知らないはずでした。彼女もその場にいたので、「教えたでしょう」と責めると、「本当のことだからいいじゃない」と言います。本当のことであっても、そのことで侮辱されるのは心外だし、大勢の前で言うことじゃないと思います。
男性を名誉毀損で訴えることはできるでしょうか。また、教えた同僚にも責任をとってもらいたいのですが、どうすればいいでしょうか。
名誉毀損については、刑法230条に規定がありますが、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損したものは、その事実の有無に関わらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」(同条1項)とされています。
ここでいう「事実」は真実であると否とに関わらず、社会生活上何らかの評価を伴うものはすべて含まれますので、公知性のない「離婚歴」という事実は、名誉毀損罪の要件としての「事実」に該当することになります。ただ、離婚歴があると言うことが「名誉を毀損」したといえるかというと微妙であろうと思います。最近は「バツイチ」などという言葉が否定的な意味合いを持たずに使われる風潮もありますので、離婚歴があるという事実を公表したことが名誉を毀損したと判断される可能性は少ないものと思われます。
次に、「公然」の要件ですが、「公然」とは、不特定または多数の人が認識しうる状態に達することの可能な状況をいいます。「職場の大勢が参加する慰労会」という状況が「公然」という要件に該当するか否かは微妙です。「特殊の関係によって限定された範囲に属する者」の中での発言であれば不特定性は失われ、「多数」というのも10人や20人というくらいでは「多数」の要件を欠くでしょうが、その場の発言が次々と人伝えに広がっていく可能性もありますので、「公然」の要件を満たす可能性はありますが、前述の「名誉を毀損した」という要件も勘案すると、本件が刑事的に処罰される可能性はほとんどないといえるでしょう。
このように刑事上の処罰を受けさせることは難しいとして、民事上の損害賠償の請求という点ではどうでしょうか。
職場に秘密にしていた「離婚歴」という事実を公にされたくないというのは、社会通念上保護されるべき私生活上の秘密ということができますから、これを、正当な理由なく、多数の同僚のいる場所で摘示する行為は、個人の人格権に対する不法な侵害行為として、損害賠償の対象となる場合があると思います。設問の場合には、単に口論の末興奮して、あなたの個人的な「離婚歴」という事実を口に出してしまったのでしょうから、正当な理由があるとはいえず、慰謝料請求が認められる可能性はあります。
ただ、その場合の、慰謝料額については、その発言によってあなたが個人的に「絶対に許せない。」という感情を持ったとしても、社会通念上相当な賠償金という概念で評価せざるを得ないため、仮に訴訟をしても、あなたが納得できる金額の賠償を受けることは難しいと思います。加えて、その発言が、あなたとの喧嘩まがいの口論に端を発しているということであれば、そのときにあなたが発言した内容を捉えて過失相殺が認められる可能性も否定できないと思います。
また、あなたの離婚歴を教えた同僚の方に対して法的責任を取ってもらえるかという点については、行為の違法性や、そのことによってあなたが被る精神的苦痛に対して、同僚の方に故意や過失があったのか、更には、他人に話をしないことについて社会通念上も期待可能性があったのかという点を法的に評価して決せられます。この点については、訴訟になった場合でも、判断をする裁判官によって評価が分かれるところだと思いますが、仮に、同僚の方に法的責任を認めたとしても、そのことによる賠償額は、極少額にとどまると思います。
以上述べたように、本件の「離婚歴」の公表という問題について、法的な制裁を求めようとしても、おそらくあなたが十分に納得できる成果は得られないのではないかと思います。逆に、そのような法的制裁を求めるあなたの行動について、外の人たちからマイナスの評価を受ける恐れも十分に考える必要があります。今後の対処については、このような諸点を総合的に考えたうえで、慎重に判断すべきものと思います。










