札幌タイムスに掲載された原稿を若干手直しして掲載しています。顧問契約をしていない方からメールでご相談いただいても、原則としてお答えすることはありませんのでご了承ください。
就職内定は会社の都合で取り消せるのですか?
現在就職活動中の大学生ですが、やっと最近数社から内定をもらうことができました。その中には、第一志望の会社もあるのでほっとしているところです。
ところが先日、部活の先輩から、私が就職したいと考えている同じ会社を受け、内定をもらっていたのに入社直前の3月に突然取り消しになったという話を聞きました。先輩はとくに理由を聞かずにあきらめたようなのですが、ほかの志望先には断りの連絡を入れてしまっていたので現在も求職中だそうです。
企業は、理由もなく就職内定を取り消したりできるのでしょうか。心配なので、そういうことがあり得るかどうか教えていただきたいと思います。
まず、ご質問の就職内定の法的な意味を考えてみましょう。
新しく学校を卒業する者を採用する場合、通常、企業は卒業の何カ月か前に試験や面接を行い、採用を一応決めてその通知を出すことがありますが、これが一般に採用内定といわれます。その法的な性格については、採用内定とひとことでいっても、具体的な個々の事情、例えば採用通知の文言、当該会社の労働協約、就業規則等の採用手続に関する定め、従来の取扱いの慣例による採用通知の意味などによって、その法的性格も同一とはいえないので、採用内定一般についての回答をすることは難しく、上記の具体的な事情を考慮しなければご質問に対する明確なお答えはできないことになります。
ただ、新規学校卒業予定者の採用内定については、会社が勤務開始予定日を明示した採用内定の通知を出し、これに対して卒業予定者が入社の誓約書等を提出するというタイプが一般的だと思いますが、このような場合について、「就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間、誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのが相当である」と判断した最高裁判所の判例(昭和54年7月20日第2小法廷判決)があります。もちろん、この判例の結論が採用内定一般に適用されるとは限りませんが、採用内定の問題についての指標となる判断といえます。
次に、採用内定の取り消しはどのような場合に可能かという問題についてですが、この問題については、採用内定の法的性格をどのように考えるかに関わらず、採用内定にはある種の法的拘束力があり、その取消しは自由に行えず、一定の制限を受けるというべきです。前記の最高裁の判決は、新規学校卒業予定者について、「いったん特定企業との間に採用内定の関係に入った者は、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に異なるところはないとみるべきである。したがって、‥・‥‥‥採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と述べて、採用内定の取消しに制限を加えています。
したがって、企業がその自由な裁量で、あるいは留保した解約権の行使事由に形式的に該当するというだけで内定取り消しをすることはできないといえますので、理由もなく就職内定を取り消したりできるかというご質問については、合理的な理由がなければできないという回答になります。ただし、採用企業の急激な業績悪化等の事情で内定取り消しが有効と認められる場合もありますのでご留意ください。
なお、民間企業と違って公務員の場合には、任命権者の任命行為(辞令書の交付)をもってのみ公務員たる地位が生ずるので、採用内定の意味については「採用発令の手続を支障なく行うための準備手続」と捕らえ、採用内定をしても役所はそれに拘束されないという解釈が取られているようですから、この点も注意されたほうが良いと思います。
10年以上前の身元保証契約の効力は?
以前中学の教員をしていたときの教え子が家族を亡くしたために、就職の際に私が身元保証人を引き受けました。
卒業後も、しばらくはその子からの連絡がありましたが、数年たって私が退職してからは連絡が途絶えてしまいました。ところが先日、彼が職場(卒業後に就職した会社)のお金を数100万円盗み出し、今まさに逃げているところであるという連絡がありました。その就職先からは身元保証人なのだから「賠償する義務がある」と言われていますが、10数年前の身元保証でも賠償の責任はあるのでしょうか。
身元保証契約は、身元保証人が被保証人である従業員の職務行為ないし職務に関連ある行為について、雇用者が支出した損害を賠償する義務を負う契約で、ご質問の「職場のお金を数100万円盗み出し」たというのは、「職務に関連ある行為」によって雇用者に損害を負わせたとして賠償の対象となる行為といえます。
しかし、ご質問のように、知人の身元保証をしたばかりに、相当期間を経過した後、音信の途絶えてしまった被保証人の行為によって保証義務を負わせられるのは社会的にも相当でないということで、身元保証人の責任を限定するために「身元保証ニ関スル法律」が昭和8年に制定され、現在もこの法律によって身元保証人の責任は限定されています。
そして、この法律によって、存続期間を定めない身元保証契約については原則として「契約成立の日から3年間」、存続期間を定めてある契約であってもその期間は「最長5年」に制限されています。(5年以上の期間を明示して契約を締結しても5年を超える部分は無効となります。)
また、雇用契約については、特段の問題のない限り期間満了後黙示の更新がなされることが一般的であると思いますが、そのような場合に身元保証契約も付随して自動更新されると、法律によって身元保証債務の存続期間を限定した趣旨が失われてしまいますので、「身元保証契約の期間満了時に当然に更新の効力を生ずる」というような特約は無効となります。ただ、このような場合にも、期間満了の都度、身元保証人に通知して契約の更新をするか否かを判断させる機会を与えられていた場合には、保証契約更新が有効と判断される恐れもあるので注意が必要です。
ご質問の場合には、特に身元保証契約更新の意思確認もなかったようですから、今回の事件について身元保証責任を問われる心配はないものと思われますのでご安心ください。
条件付解雇予告の有効性は?
会社を解雇させられたのですが、腑に落ちないことがあります。解雇予告は3か月前だったのですが、「残り3か月のうち1度でも月間の営業成績がノルマの150%に達したら解雇は撤回する。」と言われたので、死に物狂いで頑張りました。すると、最終月の売り上げが目標に達したのです。ただし、最後のお客様が正式に契約を申し込んできたのは解雇日の翌日でした。さらにその翌日にも、私の営業先から契約の申込がありました。
そのことを伝えて会社に掛け合っても、「君はすでに退職したことになっている」と、取り合ってくれません。
念書もあるのに、これは約束違反ではないでしょうか。
使用者の一方的な意思表示によって労働関係を終了させることを解雇といいますが、解雇は労働者の生活に甚大な影響を与えるため、解雇の手続として、労働基準法では、使用者が労働者を解雇する場合には30日前までに、その予告が必要であると定めています(第20条)。
あなたの勤務先では、この規定で要求している以上の3か月前に解雇予告をしているという理由で、あなたが既に退職していると主張しているのだと思います
しかし、ご相談の件では、そもそも解雇予告自体に問題がありそうです。30日以上前の予告であっても、解雇日が不確定の場合や、条件付の解雇予告は、適法な解雇予告と解されないからです。
特に、ご質問のような条件付の解雇予告は、従業員を非常に不安定な立場にさせてしいます。あなたも、「ノルマの150%に達したら解雇は撤回してもらえる。」という期待を持って必死に働いたわけですが、このような期待を持たせる解雇予告が有効だということになると、将来の不確定な条件がその後の雇用関係を左右するのですから、予告期間中に次の就職先を探さないまま予告期間が経過して解雇されてしまう可能性がある一方で、次の就職先が決まったのに、解雇がなかったものとして勤務の継続を強いられたりすることになるかもしれないからです。
このような理由から、条件付の解雇予告は無効ということになりますので、あなたに対する解雇も無効ということで争うことが可能です。
あなたの場合も、会社に対して条件付の解雇予告は無効なので雇用を継続して欲しいと申し入れをしてみてはどうでしょうか。
それでも、会社の方で取り合ってくれないようであれば、まずは、労働基準監督署に相談してみるのが良いと思います。
倒産した会社に対して未払い賃金があるのですが
勤め先が倒産してしまいました。ずいぶん前から給与が遅配状態だったのですが、未払い賃金はどうなるのでしょうか。いろいろな人に相談したところ「それは労働債権といって、請求できるはず」と言うのですが、会社そのものはお金がないわけだから、どこに請求したらいいのかわかりません。ハローワークなどで聞けばわかるでしょうか。
労働債権のことを教えてくれたひとたちはみんな倒産の経験がなく、詳しい方法は知らないようなので教えてください。
勤め先が「倒産」したとのことですが、具体的にその後の処理はどうなっているのでしょうか、たとえば破産の申立をして法的な整理をしたとか、代表者はいるけれども事実上会社を閉鎖してしまったとか、あるいは代表者自身は夜逃げしてしまったなどいろいろな場合が考えられます。
会社が破産の申立をして法的な整理をすることになったのであれば、まずは破産債権の届け出が必要になりますから、破産裁判所から書類が送られてくることになると思いますので、それに所定事項を書き込んで提出することになります。そして、届け出た未払い賃金については、他の一般債権から優先的に返済を受けることができるのですが、租税公課などの税金に優先されてしまうために、十分な救済を受けられないという問題があります。(注 平成17年1月1日以降に申し立てられた破産事件については、未払い賃金の一部について配当手続によらずに優先的に支払いが受けられるように法律が改正されました。)
そのような場合に、最も有効な手段として、未払賃金立替払制度があるので、この制度を利用するとよいでしょう。未払賃金立替払制度とは、企業が「倒産」したために賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、その未払賃金の一定範囲について労働者健康福祉機構が立替払いする制度です。
その条件として、勤務先の企業が「倒産」している必要があります。ここでいう「倒産」とは法的に破産等の手続が開始されていなくても、事実上事業活動が停止して再開する見込みがなく、かつ、賃金支払能力がないことについて労働基準監督署長の認定があった場合をいいます。そして、労災保険の適用事業で1年以上にわたって事業活動を行ってきた企業(法人、個人を問いません)に「労働者」として雇用されていた従業員が、企業の倒産に伴い退職し、「未払賃金」が残っている場合に立替払を受けることができます(ただし、未払賃金の総額が2万円未満の場合は、立替払を受けられません。)。そのほかにも、細かな条件がありますので、詳細については、労働基準監督所か破産の場合には破産管財人にご質問ください。
なお、法的に整理をせずに会社が「倒産」してしまった場合には、雇用主は従業員に対してきちんと賃金を支払わないと処罰される可能性があります。労働基準監督所では、賃金の支払いを受けられない労働者から賃金未払いの申告を受けると、調査したうえで、雇用主(会社の代表者)に支払いを促してくれることもありますので、代表者に支払能力があるのに会社が「倒産」してしまったというような場合には、労働基準監督所に相談してみるのが良いと思います。










