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「市民のための民法」へ
~ 最も身近な法律が、最も分かりにくい法律にならないように ~
2010年04月19日
今、民法改正の議論が盛んになっています。
昨年4月、民法学者を中心とする「民法改正検討委員会」が、およそ2年半の時間をかけて取りまとめた「基本方針」を発表し、同年11月24日から、法務省の法制審議会で本格的な改正議論が始まっています。政府は、「早ければ2012年の通常国会への改正案提出を目指す」としています。
今回の改正の対象は、「債権法」です。と言っても、「債権法」という名前の法律が存在する訳ではありません。全部で1044条からなる民法は、「第1編 総則」、「第2編 物権」、「第3編 債権」、「第4編 親族」、「第5編 相続」とう構成になっており、第3編のことを「債権法」と呼んでいます。ですから、今回改正されるのは、民法のうち、第3編とそれに関係する第1編の一部ということになります。
「なんだ民法の一部か・・・」という思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、改正の対象となるのは、私たちが日常的に関係している、お店で何かを買う(売買契約)、他人から何かを貰う(贈与契約)、あるいは物を借りる(賃貸借契約など)、お金を借りる(消費貸借契約)、大工さんに建物の修繕をお願いしたりお医者さんに治療をお願いしたりする(請負契約や委任契約など)などといった基本的な契約全般や、「それはもう時効でしょ」というときの「消滅時効」など、国民の経済活動の基盤となる権利義務を定める基本的かつ重要な部分です。
では、なぜ改正が必要なのか。
それは、民法が、私たちの権利や義務を定める最も基本的な身近であるべき法律でありながら、各市民が読んでも分からない、使いにくいものである、ということが一つの大きな理由にあります。
前記検討委員会メンバーのある民法学者は、民法が「市民のための民法」になれない2つの問題を指摘しています。
その1つ は、そもそも、民法が、国民が読むことを想定せずに作られたのではないか、ということです。この学者は、国民が読むことを想定していないと考える象徴的な例として、第513条の更改を挙げています。
更改という制度を定める冒頭の規定である民法第513条第1項1は、
「当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは、その債務は、更改によって消滅する。」
と書かれています。冒頭の規定なのに、「更改」が何なのか書かれていませんし、民法のどこを探しても「更改」がどんなものかを定めた規定は存在しません。そのため、この条文をはじめて読む人は、「更改によって」という部分の意味が分かりませんから、ここを飛ばして読まざるを得ません。すると、「債務の要素」つまり目的物とか当事者とかを変更する「契約」(合意)をすると、それで「その債務は」「消滅する」となります・・・が、これでは何がなんだかさっぱりわかりません。
「更改」は、合意に従った「新しい債務を発生させる制度」なのですが、それが分かっていれば、なるほど新しい目的物とか新しい当事者になった新たな債務ができて古い債務は消滅するのかと読めるのですが、少なくとも更改という制度の理解なしに、この条文の意味を理解することは不可能です。専門的な知識がないと読んでも分からない法律は、市民のため、なんて到底言えません。最近改正された法律は、条文の最初の方に定義規定があるなど、実に親切であり、一方で、変わらないままの民法は、分かりにくさが際立ってきているとも感じます。
2つ目には、民法には原則しか書かれていないことが挙げられています。ですから、日本の民法は条文数が少ないのです。日本の民法が全部で1044条であるのに対し、日本が参考としたフランスやドイツの民法典は日本の倍以上の条分数です(フランス:2388条、ドイツ:2385条)。原則しか定められていないためにどうなるかというと、民法が定める市民生活のルールを、膨大な数の判例や難解な学説の解釈論によって補充せざるを得ないということになります。現実に今、そういった状態であり、しかも、その解釈論には、条文をどう読んでも絶対に導くことができないものも珍しくありません。条文に書かれておらず、条文から導くことのできない解釈論を知らないとルールが分からないというのでは、とても市民のための法律なんて言えません。
基本的かつ重要なルールについては、分厚い専門書を読まないと到達できないものであってはならず、法律の中に、分かるように書かれているべきです。「債権法」は、平成16年に口語化された(それまでは、カタカナでとても読み難かったです。)ことがあるものの、明治29年の民法制定以来、内容的に一切改正されていない部分であり、どのような改正がなされるのか、期待していますし、楽しみです。
改正の行方に注目し、今後、具体的な改正内容を皆さんにご紹介できたらと思っています。










