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クレームの法的検討3(損害論)

2010年04月05日

弁護士 田代 耕平

今回は、前回(No.118)に引き続きクレームの法的検討における損害論のうち人身損害についてお話させていただきます。

クレームに法的根拠が認められる場合に損害賠償義務が発生して損害を賠償しなくてはならないことは、物的損害であっても人的損害であってもその理論的な根拠は同様です。

しかし、人的損害においてその損害を金銭評価をするときに物的損害とは若干異なる特徴があります。

まず、人的損害においては、消極的損害が発生する、またはその主張をされる可能性が高いという特徴があげられます。

前回もお話しましたが、消極的損害とはいわゆる得べかりし利益の損失を言います。得べかりし利益は、将来の損害という性質上その算定が困難であるという事情があり、積極的損害以上にその算定を困難とさせます(消極的損害には領収書はありません)。

次に、一概には言えませんが、人的損害は物的損害に比べてその損害額が高額化しやすいという特徴が挙げられます。

さらに、人的損害は、物的損害に比して相手方が感情的になっているケースが多く、交渉が難航するという特徴も挙げられます。

では、このような人的損害の特徴をふまえてクレーマーにはどのように対応し、どのくらいの金員を支払えばよいのでしょうか。もう少し具体的にお話しさせていただきます。

まず、治療費等の積極的損害については、当然ではありますが、必ず、診断書を提出してもらってから領収書等で金額を確認して支払うようにして下さい。診断書を提出してもらった場合には、診断書の文書料も支払うことになります。

もっとも、治療費であってもクレーマーは慰謝料目的(後ほどご説明いたします。)で過剰診療を行うことがあります。過剰診療か否かは、医学的な判断が必要となりますが、一般的には、医師の指示がないにもかかわらず温泉療養を行う等のケースは過剰診療である可能性が高いと言えます。

その他、通院交通費等の請求もありますが、紙幅の関係上ご説明は割愛させていただきます。

次に、休業損害についてご説明します。休業損害は、消極的損害に分類される損害であって得べかりし利益の損失を損害として支払うものです。例えば、入通院によって相手方が仕事を休まなければならなかった場合にその休業分の給料を支払う場合などです。

休業損害を支払う際には、クレーマーの勤め先に休業損害証明書を発行してもらい休業の事実と休業によって給料が支給されなかったことを確認する必要があります。なお、有給休暇を使用した分は、給料が支給されていたとしても休業損害として認められます。

クレーマーが勤め人であって給料で生活しているものであるときの休業損害は、比較的算定は容易です。しかし、問題は個人事業者などで収入の把握が困難な者です。

個人事業者の休業損害は、基本的には確定申告や決算書等の資料によって1日あたりの収入を算定しその収入から固定経費を控除して1日あたりの休業損害を算定します。

しかし、クレーマーの中には、確定申告を行っていない者や確定申告はしているもののその申告は節税(脱税?)のためのものであって本当はもっと稼いでいる等と主張する者もいます。

これらの主張に対しては、損害額の証明責任は請求する相手方にあることを説明して支払いを拒絶してください。このように根拠のない請求の支払いに応じる必要はありません。

その他、消極損害には後遺障害による逸失利益(後遺障害によって労働能力を喪失した場合に将来減額される可能性のある給料を損害として支払うもの)の問題がありますが、後遺障害が生じるような事案においてクレーマーの存在をあまり想定できず、また、複雑な問題が多く紙幅の関係上本メルマガでのご説明は困難であることから割愛させていただきます(後遺障害が発生するような事案においてはクレーマーも弁護士に依頼する可能性が高く、弁護士がついた場合にはクレーマーの不当要求はその弁護士が説得し抑えてくれます。)

最後に、人身損害の慰謝料についてお話させていただきます。

慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償であって、精神的苦痛は人それぞれ異なるものであることからその算定は困難を極めます。

そこで、交通事故における損害賠償実務においては、入通院期間によって大まかな基準ができています。交通事故の損害賠償実務は、交通事故が多発するため非常に発達しており、多くの他の類型の損害賠償請求事件の参考とされています。

この交通事故の損害賠償実務では、たとえば、1か月入院したときは慰謝料は53万円、1か月通院したときは28万円等と基準が設けられています(もっとも、この基準は裁判になった場合の基準です。また、傷害部位等によっては違う基準が適用されることもあります。)。

このように、傷害に伴う慰謝料は、基本的に入通院期間によって算定されるものです。クレーマーの中には、この慰謝料算定の実務を熟知して、慰謝料額を高額にするために治っているのに入通院を繰り返したりする者もいます。このようなクレーマーに対しては、同意書を取り付けて医療機関に治療内容等を問い合わせる等で対応する必要があります。

このように、明らかに傷害慰謝料目的の相手方の場合には、弁護士に依頼して弁護士対応とすることが賢明です。

以上、今回と前回のメルマガで損害の算定に関するお話をさせていただきました。

しかし、話し合いによる解決では、必ずしも私がお話した基準どおりの解決がされているわけではありません。

また、損害額が決まっても過失相殺(相手方にも落ち度がある場合に減額を請求する制度)の問題もあります。

そこで、次回私が担当するメルマガでは、クレーマーとの和解について、一般的な注意点とクレーマー特有の注意点をお話させていただこうと思います。

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