行政訴訟の壁
2008年09月24日
ある日、あなたの住む土地が自治体の土地区画整理事業の対象とされ、事業の遂行のために、あなたの土地を別の土地と交換しますと言われたら、どうしますか。また、別の土地との交換は免れたものの、その計画のせいであなたの家の周りで交通渋滞が発生することが確実であると見込まれる場合、自治体が決めたことだから仕方がないと平穏な生活を諦められますか。
行政の一定の行為に対し、その取り消しを求める訴訟が取消訴訟という行政訴訟です。今月10日、この取消訴訟において、最高裁が画期的な判例変更を行いました。
問題となったのは、静岡県浜松市の土地区画整理事業です。平成15年、浜松市は、遠州鉄道鉄道線上島駅付近の連続立体交差事業に伴う事業として、上島駅の周辺約5.7ヘクタールを対象に土地区画整理事業計画を決定しました。この事業計画に反対する地権者約30人が、事業計画の取消しを求めて提起したのが本件訴訟です。
これまで行政訴訟には「処分性」という大きな壁がありました。行政訴訟法3条2項は、取消訴訟を「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の取り消しを求める訴訟であると定義しています。そのため、行政訴訟を提起するためには、その対象としての行政庁の処分が成立していなくてはなりません。行政庁の何らかの行為があっても、それが未だ「処分」として成立していない場合には、その訴えは対象を欠くものとして却下されてしまいます。これが「処分性」の問題です。最高裁は、取消訴訟の対象となる行政庁の処分とは、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し或いはその範囲を確定することが、法律上認められているもの」と定義しています(最判昭和30年2月24日)。
本件で問題となった土地区画整理事業計画は、その名の通りまだ「計画」に過ぎず、計画決定の後にこの計画に基づく様々な行為が予定されています。そして、この行為によって、計画の対象となっている人に対する影響が具体的になるため、当該行為以前の「計画」が「処分」といえるのかが問題となるのです。
変更前の判例である最高裁昭和41年2月24日判決は、事業計画は「特定個人に向けられた具体的な処分とは著しく趣きを異にし、事業計画自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎないと解すべきである。」「事業計画は、それが公告された段階においても、直接、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、また、宅地・建物の所有者又は賃借人等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分ではない」として、土地区画整理事業計画の処分性を否定しました。
しかしながら、この判決に対しては多くの批判がなされてきました。というのも、計画が決定されれば、その後、計画に基づく具体的な処分へと流れていき、対象者の権利に変動をもたらす日はほぼ確実にやってきます。それにもかかわらず、対象者はその日が来るまで黙って待っていなければならず、それを待っていたことにより事実上手遅れになることも多く、結局のところ行政訴訟による救済が図れないというのが現実だったからです。
これに対し、今月10日の最高裁判決は、事業計画決定により、地権者は換地処分を当然に受けることになり、建築も制限されるなど、その法的地位に直接的な影響が生じると指摘し、実効的な救済を図るには、事業計画段階で提訴を認めることが合理的であると判示しました。
この42年ぶりの判例変更により、従来、行政訴訟の大きな壁の一つであった「処分性」の要件が緩和され、その門戸が広がったことは間違いありません。最高裁は、原告の訴えを不適法として却下した1審、2審の判決を破棄し、事件を静岡地裁に差し戻しました。これからようやく裁判は、事業計画の中身の審理に入ることになります。これからの裁判の行方に注目したいと思います。










