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法律コラム

マンション共用部分への携帯電話基地局の設置
(札幌地裁平成20年3月14日判決)

2008年07月01日

弁護士 下川原慎吾

平成20年3月14日、札幌地方裁判所がマンション共用部分への携帯電話基地局設置契約の有効性について判決を下しました(以下「本件判決」と言います。)。以下、ご紹介いたします。

1 事案の概要

本件は、電気通信事業を行っている株式会社が原告となり、マンション管理組合である被告に対し、被告の構成員が区分所有者となっているマンション(以下「本件マンション」と言います。)の屋上の一部を賃借して通信設備等を設置する契約を締結しているとして、賃借権の確認及び通信設備の設置工事の妨害禁止等を求めた事案です。

原告会社は、携帯電話の基地局を本件マンションの共用部分である屋上の一部に設置しようと被告管理組合の理事と交渉を続けてきました。そして、被告管理組合の臨時総会において、携帯電話の基地局設置の議案が上程され、組合員総数及び議決権の4分の3以上の賛成で可決しました。臨時総会の議決を経て、原告会社と被告管理組合の理事長との間で、平成17年11月ころ、本件マンション屋上への携帯電話基地局(以下「本件設備等」と言います。)の設置を目的として、賃借期限を平成27年11月14日、賃料を年額60万円とする賃貸借契約(以下「本件契約」と言います。)を締結しました。

なお、本件設備等の内、アンテナは高さ8メートルの棒状、機械収容箱は、幅役1.7メートル、奥行き約1.2メートル、高さ約1.65メートルの直方体であって、アンテナと機械収容箱の総重量は約1.5トン、本件建物屋上のコンクリート部分に約10センチメートルの深さでケミカルアンカーを打ち込み、鉄筋を組んで生コンを入れて架台を造り、基礎を設けて設置するものでした。

2 本件事案の争点

本件マンション屋上への携帯電話基地局の設置を目的とする本件契約の有効性。

3 本件に関連する区分所有法の規定

建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)は、第13条で「各共有者は、共有部分をその用法に従って使用することができる」旨を規定しています。同法17条は、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)については、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する(但し、規約で過半数まで減ずることができる。)」旨を規定しています。

4 被告管理組合の管理規約(以下「本件管理規約」と言います。)

本件管理規定には「管理組合は総会の決議を経て、敷地及び共用部分等の一部について第三者に使用させることができる」旨の規定(16条2項)があり、「総会の議事は、出席組合員の議決の過半数で決する旨の規定がある」旨の規定があります(46条2項)。

他方において、本件管理組合には、「敷地及び共有部分等の変更には、組合員総数及び議決権総数のそれぞれ4分の3以上の賛成がなければならない」旨の規定があります(46条3項)。

5 本件判決の内容

「本件契約は、賃借権の設定という法律関係の形成を内容とするが、他方において、本件契約に基づいて、本件設備等を設置することが予定されており、この点は、物理的な変更を目的としているといえる。」

この点、「本件管理規約46条3項及び区分所有法17条1項は、物理的な意味での変更のみを対象としており、」「法律関係の形成にあたる行為は、そもそも同規定が想定している変更にあたらず、同規定の適用はない」。

他方、「本件管理規約16条2項は、法律関係の形成にあたる使用権の設定等を対象としており、法律関係の形成は、同規定による」。「同規定は、賃借権の設定にも適用されうるが、その適用は、原則として、管理行為に含まれる賃借権の設定、換言すれば、民法602条の期間を超えない賃借権の設定に限られ、その期間を超える賃借権の設定のような処分行為には、適用されないというべきである。」

そして「共用部分の管理という目的からすると、本来、共用部分は区分所有者の共同の利益のために設置されているものであり、第三者に賃借されることは、その本来の目的に従ったとは言い難いこと、民法602条の期間を超える賃借権の設定の権限を区分所有者の団体に委ねなければならない必要性は乏しいこと、これらの賃借権の設定が区分所有者に与える影響は少なくないこと等を考慮すると、区分所有者の団体が決する問題では無く、個々の区分所有者が共有持分権者として判断すべき問題であり、そもそも、区分所有者の団体が決議できる事項にはあたらないと言うべきであり、このような行為は、本件管理規約や区分所有法に基づいて決するのではなく、民法の原則に基づいて、共有者が全員でこれを行う必要がある」。

もっとも「区分所有者全員で行うことが困難な場合もあることは、否定できない。」。そこで「マンションの共用部分を対象とする長期間の賃貸借の設定であっても、その場所や面積、普段の区分所有者の利用方法、設定する賃借権の条件、設備の設置の有無やそれによる物理的な変更の程度と原状回復の容易さ」を「総合的に考慮した場合、原状回復が容易である等、共有者たる区分所有者に与える影響が軽微であって、区分所有者全員でこれを行わせることを求めるのが相当とは言い難い」「特段の事情がある場合には、実質的にみて処分行為にはあたらないものとして、区分所有者の団体が管理行為として行うことができる」。

この点、「本件契約による賃借権の設定や本件設備等の設置が区分所有者に与える影響が軽微であるということはできず、実質的にみて処分行為にあたらないということはできない。」。よって「本件契約は、個々の区分所有者全員で締結する必要があるから無効である。」。

チャート図

6 本件判決の意義

各区分所有者に与える影響が大きい実質的にみて処分行為に該当する共有部分の使用権設定について、区分所有者の「団体」(管理組合)において多数決原理で決する問題ではなく、個々の区分所有者「個人」が共有持分権者として判断すべき問題であり、区分所有法や区分所有法に基づいて規定されている管理組合の管理規約に基づくのではなく、個々人の法律関係を規定している民法の原則に戻るという大原則を示した上、例外的に「団体」が管理行為として行うことができる「実質的にみて処分行為にはあたらない特段の事情」を明示した点に本件判決の意義があります。

以 上

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