ライプニッツとホフマン
2008年05月12日
- 4月18日、札幌高等裁判所が、中間利息控除の方式として、ホフマン式を採用した判決を出しました。
- 交通事故に基づく損害賠償請求における「損害」の1つの項目として、逸失利益があります。
「逸失利益」とは、事故がなければ得られたであろう利益を言い、その典型的なものは、稼動利益です。交通事故に遭い、重度の後遺症を負ったため、仕事ができなくなれば、得られたはずの収入が得られなくなったわけですから、これが損害となるわけです。 - では、例えば、年収500万円、30歳で、重度の後遺症を負ったために、全く仕事ができなくなった場合の逸失利益はいくらと計算されるのでしょうか。
ここには、2つの問題があります。1つは、何歳まで収入を得られたはずかということ、もう1つが、「中間利息の控除」です。
何歳まで収入を得られたはずか、という問題は、本来は、人によって異なるはずで、「本当のことは分からない」ということになると思いますが、「分からない」ではすまないので、実務上のルールが存在します。67歳まで、就労可能とするのが、現在の基本的なルールです。 - もう1つの問題が、「中間利息の控除」です。
先程の年収500万円、30歳で、重度の後遺症を負った方の例では、500万円×(67歳-30歳)=1億8500万円が逸失利益であると算定されそうですが、そうではないのです。
裁判や示談で解決する場合、損害賠償金の受領は、解決時に一括となる場合が多いのです。事故がなければ、30歳から67歳までの長期にわたって合計1億8500万円を受領するわけですが、これと一括で1億8500万円を受領するのでは価値が違うのです。
なぜなら、1億8500万円の現金は、今後、37年間で、新たな価値を生むと考えるからです。つまり、一括での1億8500万円は、もらい過ぎになってしまうのです。これは高金利の時代には、しっくりくる話しです。銀行に37年も預けておけば、かなり金利が付くからです。
そこで、「中間利息の控除」が行われます。将来得られるであろう利益を現在の価額に計算し直すわけです。 - この「中間利息の控除」について、ホフマン式とライプニッツ式があります。詳細な説明は省略しますが、ホフマン式は単利計算、ライプニッツ式は複利計算で(民亊法定利率年5%に関しての控除です。最高裁判所平成17年6月14日判決)、どちらを採用するかによって、逸失利益の額が大きく異なる場合があります。さきほどの例では、ホフマン式を採用すると6489万8000円となるのに対し、ライプニッツ式を採用すると3041万4000円となるのです。
この2つの方式について、最高裁判所は、いずれについても「不合理とはいえない」として是認しています(昭和37年12月14日判決、昭和53年10月20日判決)。そのため、裁判所によって採用する方式が区々に分かれ、東京地裁はライプニッツ式、大阪地裁、名古屋地裁はホフマン式を採用していると言われていました。
しかし、被害者の居住地域によって、逸失利益の額が異なることは不合理であり、 そのため、平成11年11月、東京、大阪、名古屋各地裁の交通部所属裁判官が協議をし、特段の事情のない限り、ライプニッツ式を採用するとの共同提言(「三庁共同提言」と呼ばれます。)が公表されました。
もちろん、裁判官には、憲法上、職権行使の独立性が認められており、この提言が、個々の裁判官を拘束するものではありませんが、実務上は、三庁共同提言に沿った運用がなされてきました。 - このような経緯があったうえでの、今回の札幌高裁判決ですので、弁護士としては、その意味合い、すなわち、
- どのようなケースでもホフマン式を採るのが正しいと考えている判決と読むのか
- このケースには、「特別の事情」が存在するので、ホフマン式を採用した判決と読むのか
この判決を機会に、訴訟において、原告(被害者)が、ホフマン式の採用を主張をするケースが増加することが考えられます。










