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民法改正・解説コラム 第3回『保証制度の改正』

弁護士ブログ

民法改正・解説コラム 第3回『保証制度の改正』

弁護士 仲世古善樹

保証制度の改正
~ 安易な保証による生活破綻や無制限な保証債務の増大を防止するために ~

1 保証とは

保証とは、AさんがBさんに対する債務【借入の返済や物を買った代金の支払いなどを想定してください。】を弁済できないときにCさんが代わって弁済する、という合意をしておくことをいいます。この場合、Cさんが「保証人」であり、Aさんを「主債務者」、Bさんを「債権者」と呼びます。

保証は、債権者と保証人との間の契約です【保証契約】。

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2 連帯保証について

そして、現実の社会でなされる保証の多くは、「連帯保証」です。上記の例で、もしAさんの支払が遅れた場合、Aさんに何らかの財産がまだあるのに、BさんがAさんに請求もしないで、いきなりCさんに支払いを求めてきたとしましょう。皆さんが保証人のCさんの立場だったら、どう思うでしょうか。「まず先にAに請求すべきだ!」「Aにはまだこれこれの財産があるから、ちゃんと調べて先にそこから回収すべきだ!」と言いたくなると思います【前者を「催告の抗弁権」、後者を「検索の抗弁権」といいます。】。

連帯保証でない保証【実務上、連帯保証でない保証を、連帯保証と区別するために「単純保証」といっています。】であれば、CさんはBさんに対して、この「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」が使えるのですが、連帯保証の場合、これらを使うことができません。つまり、Cさんが連帯保証人の場合、Bさんは、Aさんの支払が遅れたとき、Aさんに請求することをせず、また、Aさんにどんな財産があるのかを調査する努力もせずに、いきなりCさんに支払いを求めることができます。

連帯保証には、これらの点のほかにも、いわゆる単純保証と違う性質があり、その結果、連帯保証人であるCさんは、Bさんとの関係では、あたかも自分が債務者になっているのと同じような地位(Aさんと同じ立場)にたたされることになります。ただ、あくまでも「Bさんとの関係で」のことであり、最終的に責任を負うべきAさんとの関係では、Cさんが負担させられた分について、CさんはAさんから返してもらう権利があり、この点でAさんと違うということにはなります。

3 保証の問題点

このように、保証、特に連帯保証は、大変恐ろしい制度ですが、世の中では、その恐ろしさをよく理解しないまま保証をしてしまっているケースや、ある程度分かっているものの、主債務者との人間関係で断ることができずに保証しているケースが大変多く、後に、忘れた頃に、想定を大きく超える請求を受け、生活の破綻を招くことが後を絶ちません。

確かに、前記のとおり、最終的にはAさんから返してもらう権利がありますが、Bさんに支払うことができなくなっているのですから、すでにAさんは経済的に破綻している状態であり、現実に返してもらうことは、期待できないことがほとんどです。すなわち、CさんがAさんの財産等の状況を知り得る立場になければ、そのような状態になるまで、Cさんは、Aさんの状況について何も知らされず、知ったときにはすでに遅く、遅延損害金が膨れ上がり、Aさんはすでに破綻しており、手の付けようがない、というケースが極めて多いのが現実です。

4 改正案の趣旨

この度の保証に関する改正案は、上記3に記載した問題を少しでも解消することが主な目的とされています。主な改正点について、下記5でご紹介しますが、その際、上記3記載の問題点を念頭におかれ、どの問題を解消するための制度かを意識していただくと、より理解が進むと思います。

また、文中でも適宜触れますが、

  • AさんやCさんが法人【会社など】か個人か
  • Aさんが負っている債務が貸付や手形割引である場合【以下、「貸金等債務」といいます。】か、それ以外の債務も含むか

 を意識していただくと、より正確に改正案の内容を把握していただけると思います。

5 改正案の内容

以下に、実務への影響が大きいと思われる主な改正点についてご紹介いたします。

(1)個人根保証の極度額を定めなければならないとしたこと

根保証とは、AさんとBさんが継続的に取引している場合に、その取引から日々発生するAさんのBさんに対する不特定の債務を包括的に保証することをいいます。

根保証をすると、Cさんの知らない間に、Aさんの債務がどんどん膨れあがる可能性があります。そこで、Cさんが無制限に膨れあがった債務を負わされることを防止するために、「保証するのはこの金額まで」【これを「極度額」といいます。】を設けることが考えられます。

現行民法では、Aさんの債務が貸金等債務の場合にだけ、極度額を定めないと保証が無効になるとしていますが、改正案では、貸付等債務に限定せず、すべての個人根保証について、極度額を定めないと無効になるとしています【法人が保証人である場合は、除かれます。】。したがって、改正案に従うと、例えば、建物賃貸借契約を結ぶ場合において、個人【親など】を保証人にするとき、それは根保証になるので、極度額を定めていないと無効となってしまいます。

(2)事業のための借入に対する第三者たる個人保証の制限

  • ア 改正案は、Aさんが事業を行っていて、その事業のためにBさんからお金を借りる場合【事業資金の借入】、第三者であり個人であるCさんを保証人にしても、原則として無効になるとしています。現行民法には、このような規定はありませんので、大きな制限になります。

    Cさんが法人である場合やAさんの債務が貸金等債務でないとき【例えば、Aさんが事業のために事務所を借りる際に、Cさんが保証人になるときも含まれます。】は対象となりません。

  • イ このように事業資金の借入について、個人であるCさんを保証人とすることに制限が設けられていますが、その制限にはいくつかの例外が規定されています【つまり、Cさんを保証人にしても有効になる場合】。
    • 例外①
      保証契約を結ぶ前1か月以内に、一定の厳格な要件を満たしたうえで、公正証書により保証する債務を払う意思を表明することにより、個人であるCさんに保証人になってもらうことができます。保証するにあたり、Cさんに、自分が負うリスクを十分理解してもらうためです。
    • 例外②
      いわゆる経営者保証です。これには3つのパターンがあります。
      • ⅰ)主債務者が法人その他の団体である場合のその理事、取締役、執行役またはこれらに準ずる者が保証する場合です。例えばAさんが会社の場合、その取締役が保証する場合には、上記制限の対象となりません。このような場合、Cさんは、Aさんの経営状態を知り得る立場にありますし、コントロールもし得るからです。
      • ⅱ)主債務者が会社である場合に総株主の議決権の過半数を持っている者が保証する場合も、上記ⅰ)と同じ趣旨で制限の対象となりません。
      • ⅲ)主債務者であるAさんが個人である場合で、Aさんと共同して事業を行っている人やAさんの事業に現実に従事している配偶者が保証する場合も制限の対象とされていません。
        Aさんが代表取締役になって会社をしている場合【「株式会社A」としておきましょう。】に、Aさんの妻が株式会社Aで仕事をしていたとしても、取締役になっていなければ、制限の例外になりません。

ウ 保証契約を結ぶ際の主債務者の保証人に対する情報提供義務

Aさんが事業のために負担する債務【貸金等債務に限られません。】について、個人であるCさん【法人の場合は除かれます】に対して、保証のお願いする場合【このようにAさんからお願いして保証してもらうとき、Cさんを「委託を受けた保証人」といいます。】、改正案は、Aさんに、自身の財産や収支の状況等について情報提供や説明をしなければならない義務を負わせています、これは、主債務者の義務です。

改正案は、Aさんがこの義務を怠って全く説明しなかったり、嘘の説明をした場合、一定の要件を満たせば、Cさんは保証契約を取り消すことができるとしました。

エ 保証人に対する債権者の情報提供義務等

次に、債権者の義務です。

  • ア)CさんがAさんから委託を受けた保証人である場合【これは、法人が除外されておらず、個人でも法人でも適用されます。】、Cさんが、AさんがきちんとBさんに支払いをしているか等といった情報を把握できるようにするため、改正案は、Cさんから請求があった場合、債権者であるBさんは、Cさんに、Aさんの支払状況や債務の残額などの情報を提供しなければならないとしました。

    もっとも、この情報提供義務を怠った場合についての効果に関しての規定はありません。

  • イ)また、Cさんが個人である場合において【Cさんが法人の場合は除かれています。】主債務者であるAさんが期限の利益を喪失したとき【「期限の利益を喪失した」というのは、例えば、AさんがBさんに分割払いをしていたけれども、Aさんが滞納したために、残り全部を一括して支払わなければならなくなった状態をいいます。】、Bさんは、主債務者が期限の利益を喪失したことを知った時から2か月以内に、Cさんに通知しなければならないとしています。

    これは、Aさんがそのような状態になっているにもかかわらず、AさんがCさんに教えない場合【中々言い出せず、あるいは、まだ何とかなると思い、窮状を知らせないケースは、大変多いです。】、Cさんが知らないうちに遅延損害金が膨れ上がっていくことを防止する趣旨です。かかる趣旨から、Bさんがこの通知義務を怠った場合、前記通知期限から、その後にBさんが実際に通知したときまでに発生した遅延損害金の支払いを、Cさんに求めることができないとしました。

6 保証に関しては、他にも改正点があります。

その中でも、上記でご紹介した点は、例えば、新たに部屋(住むところや事務所として)を借りるときや貸すときにすぐに問題になるものであり、しかも、法律に規定された要件を満たさないと、保証契約が無効になったり、取消されたりする可能性があり、その影響は極めて重大です。契約を結ぶにあたっては、弁護士に相談されることをお勧めします。

弁護士 仲世古 善樹
弁護士 仲世古善樹

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