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事例で分かりやすく解説 弁護士との連携(第2回)高齢者虐待防止法の特色

弁護士ブログ

事例で分かりやすく解説 弁護士との連携(第2回)高齢者虐待防止法の特色

弁護士 石塚 慶如

1 事例

父(85歳)は、息子(58歳)と2人で同居しています。母は既に他界し、息子には兄弟がいません。父は要介護1でデイサービスを週1回利用しています。担当ケアマネやデイサービス職員が自宅に行っても息子は全く姿をみせません。父によると「息子は1年くらい前にリストラされてからひきこもるようになり、買物のとき以外出てこない。働いていたときは土日に一緒にスーパーに行って買物したりしたのですが」と、話します。また、父は厚生年金を受給しており自分で管理していましたが、半年くらい前に息子から「誰かにだまされないか心配だから」と言われ、それ以降は息子に管理を任せています。

1週間ほど前に、デイサービスの事業所から「本人の利用料が支払われていない」と相談を受けたケアマネが自宅訪問すると、食料はほとんどなく、父は昨日から食事をしていませんでした。また、息子にお金を渡してほしいと頼んでも「明日にならないと渡せない」と言われ、お金を強く求めると大声で怒鳴られてしまうので、諦めているとのことでした。

ケアマネによると、自宅の食卓テーブルには息子宛ての郵便物が多数あり、消費者金融からの請求書と思われる封書も数通交じっていました。

2 虐待通報と認定の基準

高齢者虐待が発見されるきっかけは、高齢者と関わる方が気付く少しの異変と、これに基づく相談や通報です。事例では、息子が管理していると思われる父の年金からデイサービス利用料が支払われておらず、また父はお金を渡されずに食事もできていません。ケアマネとしては、高齢者虐待防止法(防止法)7条1項により通報すべき法的義務があるケースと考えられます。

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2015年度の北海道の調査によると、高齢者虐待防止法(防止法)に基づく養護者による高齢者虐待に関する相談・通報のうち、77.9%が「職務上知り得た者」からでした(北海道の「平成27年度道内における高齢者虐待対応状況に関する調査結果」※資料1)。

つまり、虐待発見のきっかけが介護福祉関係者などによることが多いことを示しています。今回のケースでも、最初に「何かおかしい」と気付くのは担当ケアマネやデイサービス職員であると思われます。

「何かおかしい」と思った場合に行われるのが通報です。通報は、高齢者虐待を「受けたと思われる」状態となれば行うべきとされています(防止法7条2項など)。つまり、通報者自身の主観的認識があれば良いとされているのです。なお、通報者が個人情報保護法違反などに問われないようにするための規定(同法7条3項)があり、市町村が通報者の情報を漏らさないようにすることも規定されています(同法8条)。

通報がなされると、各種手続を経て、市町村の管理職や担当職員、地域包括支援センター職員で構成されるコアメンバー会議で虐待の存否や緊急性の有無などを確認していきます。もっとも、ここでいう虐待が認められる場合とは、民事裁判のレベルで虐待があると認定できるようなものである必要はなく、虐待の疑いが認定される程度とされています。これは、防止法上、高齢や虐待により高齢者の生命または身体に重大な危険が生じているおそれがある場合には、市町村が立入調査権限を行使できるとされています。がしかし、この権限行使は養護者による介入拒否等により高齢者の心身の状態を確認できないときなどに行われることを想定していますので、その趣旨からしても虐待の確定的な証明が必要ではないことがわかります。

3 調査結果のみでは実態を読み取れない

虐待通報は主観的要件があればよく、虐待認定は確定的な証明が必要ではないというのが「防止法の構造」です。では、近年の件数はどのようにうなっているのでしょうか。

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2015年度調査結果によると、2015年度の養護者による相談・通報件数は956件、虐待を受けたと判断した件数は417件でした(※資料2)。前年度比では、どちらも増加しております。

この調査は、防止法に基づくものですが、件数の増減によって一喜一憂すべきではないことは、先に述べた「防止法の構造」から読み取ることができます。仮に、通報や虐待認定の件数が減少したとしても、実際の虐待事案が減少したことを意味するとみるのは尚早であり、通報システムや認定基準の不安定性などから虐待にも関わらず拾い上げられていない暗数が存在しているという見方もできます。このことから、行政権限行使のための法解釈やシステム運用が均一化できるような仕組みづくりが重要になってきます。

4 防止法は養護者支援が特色

今回の事例で虐待事案であると認定され、緊急性があると判断された場合には、実際の対応に移行していきますが、その際に合わせて考えるべきことは、養護者である息子の存在です。そして、防止法は養護者について「支援等」の対象としています。

防止法1条によると、終局目的は「高齢者の権利利益の擁護」ですが、その手段として「高齢者虐待の防止」とともに、「養護者に対する支援等」が規定されています。防止法は、特に養護者による虐待については、養護者を処罰ではなく支援することにより虐待解消を目指していることがわかります。

この規定の趣旨は、一つは養護者による虐待の原因が養護による疲れや心身の不調、仕事との両立の難しさ、収入の減少など、養護者自身ではどうにもできないこともあり、支援によって健全な状態に戻す可能性があることに基づきます。もう一つは、養護者の多くが家族であり、行政権限に基づき長期間に渡って家族を引き離すことが最良であるとはいえないことが多いからです。

なお、今回の事案で虐待認定をするためにはどのような事実が必要なのかといった具体的な話は、別の機会でお話しします。

5 防止法と権利擁護の関係

防止法は、高齢者の権利擁護を目的としている一方で、行政権限が認められている関係上、高齢者本人、養護者等の自己決定権やプライバシー権などに制限を加えてしまう可能性もあります。そのため、防止法に基づく権限行使が行き過ぎにならないようにするとともに、行き過ぎなのかどうかを判断できる環境が必要です。これに関する詳細についても後日お話したいと考えています。

※本稿は「介護新聞」にも連載されています。

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弁護士 石塚 慶如
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