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駐車場の賃貸借

弁護士ブログ

駐車場の賃貸借

弁護士 野谷 聡子

1. 保護されない賃借人

我が国では、不動産(土地建物)の賃借人の利益を保護するための法制度が整備されていますが、これはいくつかの特別法(借地借家法など)により実現されています。これら特別法の適用対象としての賃貸借は限定されていますが、不動産賃貸借の大部分を占める建物賃貸借(建物(部屋を含む。)を借りる場合)および建物所有目的の土地賃貸借(土地を借りて、その上に自分の建物を建てる場合)には、この特別法が適用されるため、特別法が適用されない賃貸借の問題点がクローズアップされる機会は多くありません。しかし、建物所有目的以外の土地賃貸借、例えば、駐車目的の土地賃貸借(いわゆる青空駐車場の賃貸借)契約は、この特別法が適用されない賃貸借の一つですが、この駐車場の賃貸借について相談依頼を受けることも少なくありません。そこで、今回は、この青空駐車場の土地賃貸借について、取り上げたいと思います。

2. 青空駐車場の賃貸借

駐車することを目的として土地(およびその一部)を貸したり借りたりする場合、その賃貸借契約の効力や内容は、当該契約自体が定めるところによるほか(私的自治の原則=契約自由の原則)、民法が規律します。例えば、駐車場の賃貸借の期間について10年と定めた場合、中途解約の合意をしない限り、賃貸人は10年間、当該駐車場を貸す義務を負いますし、賃借人も10年間、当該駐車場を借りる義務を負います。

これに対し、建物所有目的の土地賃貸借には、借地借家法が民法に優先して適用される結果、賃貸借の期間について10年と定めたとしても、借地借家法3条により、いわば強制的に30年とされてしまいます(強行規定・借地借家法9条)。基本的に自由に決められるはずの賃貸借契約の内容が、借地借家法という法律によって、賃借人の利益を保護するという目的のために、直接的な修正を受けるのです。

3. 売買は賃貸借を破る

「売買は賃貸借を破る」という言葉があります。これは、典型的には、土地の所有者AがBに対し、当該土地を賃貸した後に、AがCに対し、当該土地を売却した場合、新所有者であるCがBに対し、当該土地の明け渡しを請求してきたら、Bはこれに応じなければならない、というものです(AC間の売買がAB間の賃貸借の効力に勝る)。Bが自らの賃借権に基づいて当該土地の明け渡しを拒むためには(Cに勝つためには)、Bが当該賃借権について『対抗要件』を有していなければなりません。

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借地借家法は、賃借人がこの『対抗要件』を容易に具備できるようにすることで、賃借人を保護しています。すなわち、建物賃貸借の場合は、引き渡しをもって賃借権の『対抗要件』とすると定めていますから(借地借家法31条1項)、賃借人が当該建物の引き渡しさえ受けていれば、新所有者からの明け渡し請求を拒むことができます。建物の引き渡しは建物賃貸借において当然に行われますので、賃借人が対抗要件を具備するのは簡単です。また、建物所有目的の土地賃貸借の場合は、賃借人が有する土地上の建物の登記をもって、土地の賃借権の『対抗要件』とすると定めています(借地借家法10条1項)。建物を所有する場合、通常、所有者はその建物を登記しますから、この場合も賃借人が対抗要件を具備するのは簡単なのです。このように借地借家法は、賃借人が容易に『対抗要件』を具備できるようにすることで、「売買が賃貸借を破れない」状況を生み出して賃借人を保護しています。しかし、これは、借地借家法などの特別法が適用される賃貸借だけに与えられる措置ですので、それ以外の賃貸借の賃借人は、民法の原則に従って、『対抗要件』を具備する必要があります。

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4. 民法上の不動産賃借権の対抗要件

民法605条は、不動産賃借権の対抗要件は、賃借権の登記であると定めています。しかし、賃借権を登記する例はそう多くはありません。なぜなら、賃借権を登記するためには賃貸人と共同で登記の申請をしなければならないため、賃貸人の協力が得られない場合には賃借権を登記できないからです。ということは、借地借家法が適用されない賃貸借の賃借人は、多くの場合、対抗要件を具備できないということです。今回取り上げている青空駐車場の賃借人がまさにこの場合に該当します。

賃借権について対抗要件を具備していない賃借人は、借りている駐車場(土地)が第三者に売却されてしまった場合、新所有者との間で新たに駐車場の賃貸借契約を締結しない限り、当該第三者からの土地明渡請求に応じなければなりません。このとき、賃借人は新所有者に対し、立退料や代わりの駐車場を用意することなどを請求することはできません。そのため、賃貸期間を10年と定めていても、期間満了前(例えば4年後)に土地所有者(賃貸人)が当該土地を第三者に売却してしまった場合には、当該期間(10年)の定めにもかかわらず、途中で駐車場を明け渡さなければならないのです。

5. 賃貸人からの解約申入・更新拒絶

借地借家法が適用されない青空駐車場の賃貸借では、契約で賃貸人が期間の途中でも解約できると定めた場合(中途解約の合意)、賃貸人は期間満了前でも、当該合意に基づいて賃貸借契約を解約することができます。また、契約で定めていた賃貸期間が満了した場合には、賃貸借契約は終了しますから、賃借人は当該駐車場を明け渡さなければなりません。賃貸人には、再契約をする義務も更新に応じる義務もありませんから、賃貸借契約は期間満了によって当然に終了するのです。決めていた期間が過ぎたんだから、契約が終わるのは当然では?と思われる方もいるかもしれませんが、実は、大部分の賃貸借においては、そう当然でもないのです。

借地借家法は、賃貸人が賃貸借契約を中途解約することや、賃貸人が賃貸借契約の更新を拒絶できる場合を厳しく制限しています。例えば、建物賃貸借において、契約で賃貸人が期間の途中でも解約できる(中途解約の合意)と定めていた場合でも、賃貸人は当該合意だけを理由に解約することはできません。この合意のほかに、「正当事由」が必要となります(借地借家法28条・27条)。また、賃借人が契約期間満了後も契約の更新を希望する場合に、賃貸人が更新を拒絶するには、「正当事由」が必要です(借地借家法28条・26条)。正当事由の有無は、賃貸人が当該建物を自分で使用しなければならない事情の有無や、立退料の額などによって判断されますが、そう簡単に「正当事由」は認められません。賃貸人にこの「正当事由」が認められない場合には、賃貸人は中途解約の合意に基づいて賃貸借契約を解約することはできませんし、期間が満了しても賃借人が更新を望む限り、これを拒絶することもできません。

そうすると、借地借家法が適用される賃貸借においては、基本的に、賃借人は賃料を契約どおりに支払い、かつ、契約に従ってきちんと目的物の使用をしている限り、賃貸人から中途解約や期間満了、更新拒絶などを理由に、一方的に出ていくよう請求されることはありません(請求されても応じる義務はありません)。賃貸借契約をいつ終了させるかについて主導権をもって決められるのは、賃貸人ではなく、賃借人なのです。このようにして借地借家法は、賃借人の地位を厚く保護しています。これは借地借家法が適用されない賃貸借の賃借人とは、天と地ほど違うのです。

6. 対処方法

青空駐車場の賃借人が借地権の登記を有しない場合に、可能な限り、長期にわたり安定的に当該駐車場を借りていたいと思うのであれば、賃貸借契約において何らかの対策を講じるほかありません。もっとも、いかなる方法も、法が定める対抗要件(賃借権の登記)の効力には及びません。その意味で、どんな契約条項も「売買は賃貸借を破る」という法則自体を覆すことはできませんが、それでも賃借権の対抗要件を具備するのが難しい現実の中で、期間途中の土地売買や賃貸人からの一方的な解約等により、賃借人が突然退去を余儀なくされるという事態を可及的に回避するために取りうる方法はあります。これらの対策は契約書を作成する段階、すなわち、契約をする前から準備する必要がありますので、長期かつ安定的な青空駐車場の賃貸借契約をお考えの際には、是非、契約前に当事務所の弁護士にご相談ください。

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弁護士 野谷 聡子

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