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相続と空き家問題

弁護士ブログ

相続と空き家問題

最近、別々の相談者から、相続した空き家の問題について相談を受けました。そこで、今回は私が受けた相談をもとに作成した事例を検討します。

【相談事例 その1】
先日、地方の一軒家で一人暮らしをしていた母親が亡くなりました。この一軒家と敷地は母親名義です。現在、その家には誰も住んでいません。相続人は、私と妹の2人なのですが、私も妹も、今後、この家に住む気はなく、また、遠方で生活しているため、管理もできません。手を付けられずにいたところ、この冬、この家の屋根の雪が落ちて、お隣さんの家の柵を壊してしまったと連絡が来ました。これから固定資産税の支払もあり、手に余るので処分したいのですが、買い手がみつかりません。どうしたらよいでしょうか。

1. 不動産は、様々な負担を伴う財産です。今回の相談事例は、不動産を所有することの負担が際立つ場面の一つといえるでしょう。

2. 不動産を持っていた母親が亡くなり(この場合の母親を「被相続人」といいます。)、この段階で既に父親も亡くなっていると、法定相続人は「子」である相談者と妹の2人となります。相続は、被相続人の死亡により始まりますから、相談者と妹は、家庭裁判所に相続放棄の手続をしない限り、母親が所有していた一軒家とその敷地である土地を共同で相続しています。相談者と妹の法定相続分は、それぞれ2分の1ですから、未だ遺産分割協議が行われていない状況においては、相談者と妹はこの土地と建物を2分の1の持分で共有(所有)しているというわけです。

3. 親が持っていた土地や建物を相続したのだけれど、既に自分は別のところで家族と生活する不動産を持っているので、相続した不動産には住むつもりもないし、価値も高くないので手放したい、そんな不動産のために固定資産税を払いたくないので、誰か活用してくれる人や会社に売りたいが、買ってくれる人も会社も見つからない、という相談は少なくありません。国や市町村に寄付したい、というお話も聞きますが、国も市町村も、活用が難しく、買い手もつかないような不動産は寄付であっても受け取ってくれないのが現実です。結局、固定資産税だけ払い続けて、そのままにしておくというケースがほとんどだと思います。そのままにしておいて問題がなければいいのですが、最近ではこういった空き家が様々な問題を引き起こしています。

4. 不動産に伴う負担の典型は固定資産税ですが、それと同じくらい、あるいは、それ以上に重い負担となるのが不動産を管理する義務です。特に問題が大きいのが建物です。建物というのは、人が住まなくなると一気に荒廃していくものです。窓ガラスは割れたまま、塀は崩れたまま、敷地内の立木は伸び放題となることも多く、そのような古い空き家は、不審火から火災のおそれがあるとして消防局から撤去を求められることもあります。また、特に雪が降る地方で困るのが雪害の問題です。適時に屋根の雪下ろしをしておかないと、雪解けが進む時期には相談事例のように、屋根の雪がお隣のお宅の敷地内に落ちて物を壊してしまうことがありますし、短時間で大雪が降った時には、雪の重みで家自体が倒壊してしまうかもしれません。お隣の柵を壊したくらいならまだいいのですが、停めてあった高級車を直撃して壊してしまったり、通行人を巻き込んだりしてしまったら、大変です。その責任は、建物を所有する人の管理が不十分だったことにある以上、原則として所有者が負わなくてはなりません。

5. このような事故を避けるためには、建物を壊して更地にするのが一番です。ただ、取り壊し費用は安くありません。建物が袋地や細い路地の先にあれば尚更です。そのときは、とりあえずは自分で管理するか、賃料が安くてもいいから建物を人に貸して実際に住んでもらうことで管理してもらうのがいいでしょう。

6. あとは、相続人みんなで相続を放棄することです。もっとも、注意が必要なのは、相続放棄は、相続財産(遺産)のすべてについて放棄しなければならないということです。相続財産(遺産)のうち、預貯金は相続して、不動産は相続を放棄する、といった良いとこ取りはできません。相続放棄は、自分が相続人となったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。被相続人の配偶者は常に相続人となりますが、そのほかの相続人には順位があります。第1順位は被相続人の子、第2順位は親、第3順位は兄弟姉妹です。優先する順位の相続人が相続を放棄すると、相続権は次の順位の相続人に移ります。相談事例のように、高齢の親が被相続人である場合には、その親(相談者からすると祖父母)は既に亡くなっていることが多いため、被相続人の子である相談者とその妹が相続を放棄すると、相続権は被相続人の兄弟姉妹(相談者の叔父叔母)に移ることになります。通常、相続放棄をしたことは、放棄をした本人以外は直ちには知り得ませんので、相続財産(遺産)である不動産で叔父さん叔母さんに迷惑を掛けたくないと思えば、これらの人たちにも事情を話したうえで、相続放棄の手続を採るよう伝えておくことが大切です。

弁護士 野谷 聡子

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